geco


gekko(やもり)の音、「
ゲコ」から作られた造語

カエルの鳴き声「
ゲコゲコ
酒が飲めない人は「
ゲコ」だが、僕はお酒の時間をこよなく愛する。
g... eco...., g... e......co........ 部屋の片隅の
ゲコのような生き方もいいと思う。


1986年パプアニューギニアの自宅でその鳴き声がゲコ(南の島のヤモリ)のものであることを知ったとき、驚きと感動を覚えた。静まり返ったニューギニアの闇に突然響く大きな鳴き声「カッ、カッカッカッカッカッカッ、カッアーーーーーー!」庭に訪れた鳥の鳴き声だとばかり思っていた。それが部屋の片隅にいるゲコの鳴き声だったとは・・・!

普段はまったく存在感がなく、気にもならない。ニューギニアの夜のありあまる時間にじっと観察し、部屋を見渡してみると必ず2,3匹のゲコがいた。彼らは体の色を変化させる。白い壁にいるときは白っぽい色に。黒い壁にいるときは深い黒っぽい色に。たまにじわじわと動いて白い壁から黒い壁に移動したとき、まだ体の色を変えきれない黒壁の白いゲコがいる。白壁の黒いゲコも。そいつらになんともいえない愛らしさを感じて眺めるのが好きだった。

待つこと数十分。近くに虫(獲物)がやってくる。その距離1m。わずかにゲコが動く。その距離90cm。虫が動く70cm。じっと緊張の時間が過ぎる。虫がまた少し動いた。 その瞬間!部屋中に響き渡るあの鳴き声が、虫がその鳴き声に気をとられた瞬間、ゲコは見事に獲物を捕らえた。ゲコは獲物を撹乱させるためにあの鳴き声を発していたんだ。

蒸し暑いパプアニューギニアの一人の部屋の片隅で、夜毎に展開される超娯楽スペクタクル。それを眺めているうちに人間の体の色について考えるようになった。実は人間も周辺の環境によって色が変わる。自分のいる環境によって意識も生活も変化する。変化したいと思った。そしてここぞというときの大きな撹乱を伴う鳴き声! 表現!

それまでも部屋の隅っこにいることは好きだったが、それ以降、意識的に全体が見渡せる隅っこの場にいることに自覚的になった。真ん中にいては後ろが見えない。世界の隅っこで、日本の隅っこで、地域の隅っこで、部屋の隅っこで、テーブルの隅っこで、なるべく自分のいる周辺全体を見渡そうとする。周辺の色に合わせて自分自身の色を変えつつ、移動しながら、表現の瞬間を待つ。大きく響き渡るような表現がいい。

ゲコのような生き方もいいかもしれない。 虫を食べたいわけではない。 周りの環境によって自分自身が変化し続け、ここぞというときにしっかりと力強い表現ができる。そんな存在でありたい。 意外とそれが難しい。

藤浩志